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階段を半ほどまで登っただろうか。振り返ってももう入り口は見えない。複雑に絡み合った枝や葉が、先を隠してしまっている。一本道であるから、迷うことはないがこれは引き返せないような錯覚を覚える。
へリンの息は最早絶え絶えに、隣を歩く騎士の肩を借りる始末である。もとより、体力仕事は向かないどころか、興味さえない。学者の仕事の一つにフィールドワークもあるのだが、へリンの研究には必要なかった。
騎士はといえばさすがに鍛え方が違う。息一つ乱さず、彼女の体を支える。締まりのない表情で心配そうに彼女を見つめている。
陽にさらされたことのない白い鼻筋を沿うように汗が落ちる。血色の悪かった唇はより青みがかり、喉がヒューヒューと音を立てている。胸郭の上下とともに肩を揺らし、靴先がコンコンと音を立てるのは、足が上がりきらずに石段を蹴ってしまうためだ。
「あの、背中に乗ってください」
騎士が体を離し、一段上にしゃがみ込む。彼女は吐息の隙間で、いい、と答えた。上半身を地につきそうなほどに屈ませて、腕で顔の汗をぬぐう。
騎士はその手を後ろ手に掴んで引き寄せたと思うと、あっという間に背負ってしまった。
抗うこともなく、その背中に収まった彼女は少し驚いたようだ。
「な、慣れないだろうに」
「いえ、この体、すごく軽いんで大丈夫です」
役割をもらったからか、幾分自信を持てたらしい。騎士は声を張って答えた。
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