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そこには湧水があり、そばには石造りの社があった。大きさは大人の腰ほどの高さしかない、目印に置いたような小さなものだった。そこだけはぽっかり穴が開いたように空が見え、滾々と湧き流れてゆく水をキラキラと光で彩る。広さにして家が一軒建つかどうかといったところか。
何もなければ、さぞかし癒しの空間であっただろう。
そこかしこに骨と、食べかすの肉片は腐り、深緑の草花は浅黒く染め上げられ、あの日置いて行った銀色の鎧と剣が鈍く光を携えて転がっていた。血に落ち葉が固まり、こびりついている。
社は半分崩れ、湧水を湛えていたくぼみは決壊し、草木を侵食して麓へ流れていた。
一歩歩けば柔らかい音を立てて足が沈み、ブーツが黒く染まる。
すぐそばの茂みで何かが動いた音がするのは、恐らくこれを喰いに来た獣か、魔物の類か。
騎士はへリンを下すと、その場から動けなくなった。
運んでもらううちに呼吸も整った彼女は、骨に多少の肉を残し、腐り果てているドラゴンの死骸を観察し始めた。
残された骨の大きさ、牙の状態からまだ若い個体のようである。
「あの、危ないですよ、降りましょう」
騎士は半分階段に脚をかけている。へリンが現場検証を行っている横で、「彼ら」は気配を主張してくる。早く行け、我らの餌ぞと言っているようだ。
「大丈夫だ。奴らは来れないよ。しかし、それ以上は離れるな」
彼女はすっかり固まってしまっている血溜まりを手で探り始める。何かを探しているようだ。
打ち捨ててあった剣を拾いここはというところに突き立てる。砕けたところを手でまさぐって、また場所を変える。
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