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魔女、彼女の名はへリン。本当の意味で言えば、彼女は魔女ではない。
魔女というのは、古に人と神とが交わって生まれた存在を言う。女に生まれれば魔女、男に生まれれば魔人である。人の器に神の命と力を持つ不安定な存在として恐れられてきた。
へリンは都生まれ都育ちの貴族だ。至って普通の人間でしかない。兄が3人いて、それぞれが王室で騎士をしている。末娘のへリンは本好きが高じて学者になったのだが、長い黒髪と青白い肌から、魔女とあだ名されるようになった。人とかかわるのを苦手とする本人の性格も手伝って、真実味が増すようになった。
年齢と立場からすれば適当な家に嫁いで子供を産んでもいいくらいだが、家族そろってそれはあきらめている。
一応地位としては王室付きの学者ということになっている。籍を王立学寮に置き、生物について日々研究にいそしんでいた。
自分の研究に没頭するあまり、仕事というよりは自分のためにそこにいるようなもので、普段は学寮から出ることはない。魔女のへリンといえば、魔獣関連の知識においてはかなう者はいない。今では伝説といっていいほどの存在になったドラゴンの言葉を理解できるのは、この世には彼女を置いてほかにいないだろうとされている。
それがどうして、尊敬されるでもなく、変わり者とされ、ましてや魔女と揶揄されるのか。
彼女の研究は珍しいが、役には立たないからである。ほかに研究する者がいないから、必要ではあるが、技術としては使いどころがないのだ。
この世のだれがドラゴンと言葉を交わすというのだろうか。
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