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あの日、騎士は血だまりの中で目を覚ました。自慢のブロンドは返り血でべっとりと顔に張り付き、身に着けた銀の鎧は脂でくすんでしまっていた。
鼻をつく鉄のにおい、腐敗臭。体は大地につながれたように重く、容易には立てなかった。
なれない手つきで鎧を外し、皮のようになった洋服で山を降りた。
手にドラゴンの角を引き摺って。
沈鬱な空気に飲まれていたこの集落は、ドラゴンの角をもって現れた血みどろのこの青年を、喜んで迎え入れた。
集落は先ほど少女をドラゴンに捧げたばかりであった。
騎士がドラゴンは死んだと伝えると、この騎士がドラゴンを倒した恩人だと祭り騒ぎになった。残念なことにいけにえになった娘は帰らなかったが、それでも彼女の両親は喜んだ。
引き止められるままに5日も長逗留をしているうちに王宮からの使者という女が現れた。
彼女はドラゴンと贄のやり取りがなされるということで、調査とドラゴンとの交渉のために派遣されたという。とはいえ、葬儀すら終わった後のこと、住民は受け入れはしたが、もてなしはしなかった。
女性にしては長身の、明らかに筋肉などない細い体を不健康そうな肌で覆い、黒髪は艶はありまとまってはいるがそれがかえって陰気をはらみ、夜色の瞳は人をとらえない。どこで、どんなタイミングで現れたにしても、受け入れがたい人種であることは間違いない。
「王宮より派遣されてきた学者のへリン。道中道が崩れて通れなかったため遅参した。すべては事後と承るが、詳細をお聞きする」
そう言われて真面目に答えた人間は何人いただろう。
住人は皆、口を重くし、極力彼女と接するのを拒んだ。影のように道行く彼女の姿が見えると、やれ用事だ、やれ忙しいなどとあからさまに溢しながら散っていった。
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