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踵の高いレザーブーツを慎重に、一歩一歩進めていく。無造作に置かれた石の段は、水平など考えてはおらず、ガタガタの形のまま、土に埋められている。
普段から学寮の中でのみ過ごす彼女に、この道はつらい。かといって、環境に適した格好を心がけるということには、一切頭が働かないらしい。もう、脱いでしまおうかと、靴紐に手をかけた。
「あの、脱がない方がいい、ですよ」
そこで声をかけてきた人物は、先ほどまでへリンが立っていた麓の木の陰にいた。
全体的に自信がないというか、控えめな声。その主を見ても、へリンは表情を変えなかった。
屈んだ体を起こして、半身を返す。
「ああ、そう。それで」
そう答えると、主は木の陰からおずおずと現れた。白いシャツのボタンを首元まできっちり閉めた長身の彼はつまり、件の騎士。広い肩幅を折りたたむように丸めて、上目遣いで彼女を見上げた。
「その、ヒルも出るし、それに、ケガもするし、上は」
「知っている。そのままなのだろう」
視線だけを頂上に向けて、彼を見下ろす。片足を一段上にやりながら。
そのまま、目を細めて彼を見つめる。ゆっくり視線だけを移して、騎士の値踏みをしているようだ。ふう、と一つ息をついて、落ちてきた前髪を手で後ろへ流す。
「それで」
言われた彼は言葉に詰まり、視線を足元に落とした。
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