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日ごろの鍛錬で既に形を変えてしまっている掌を胸の前で弄びつつ、地面と眼前の魔女を見比べる様は、さながら少女のようでもある。形のいい唇を小さくすぼめ、あの、だとか、その、だとか、言葉にならない単語を溢してさまよわせる。
へリンは奥歯をぎりっと噛みしめた。眉間に皺を深く刻み、苛立ちに似た侮蔑の光を瞳に宿す。そして、なるべく穏やかに筋を弛緩させるように息を吐いた。
「来てもらおうか。この道は不慣れだ。お前はもう慣れているだろう」
騎士はあっと目を見開いた。それから躊躇うように後ろを振り返る。騎士の割にリネンのシャツに緩めのボトム、同じく皮のブーツ。騎士たらしめるものなど、何一つ持ってはいない。
今度は彼女を見ながら、身振り手振りが加わりつつ、いや、でも、などの単語にもならない声を発し始めた。
その様子をみて、彼女は額に手を当て、片方の手をひらひらさせる。
「いい、そのままでかまわない。恐らくそれで足りるだろうから」
へリンは体格のわりにかっちりと張った肩を落としながら、せっかく登った数段をおりる。
未だ戸惑っている騎士の背後に立つと、広いが丸まったその背をどんと押した。
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