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「それ、テニス部の子じゃない?」
唐突に女子の声が背後からして、俺と三反田は飛び上がって驚いた。
今、女子禁制のそわそわ感を味わっている真っ只中だというのに、ずかずかと土足で上がり込んで来る女子がいることにとてつもない焦燥感を抱いた。
そっと振り返り、その先にいる女子を見た俺の心臓は、さっきの何倍も跳ね上がる。
「よ、よう、吉国」
「おっす」
吉国はいつもの愛想のない顔で軽く片手を挙げ、寒そうにマフラーに顔を埋めながら俺の手元を覗き込む。
「やっぱ、そうだよ。ほら、テニス部にいるじゃん。凄い美人な後輩。その子に何人もアタックしたのに一人も成就しなかった、あの」
吉国の滑らかな白い肌と、鋭く黒目がちな瞳と、寒さで少し濡れている長いまつげが至近距離に迫り、意図せず唾を飲み込んだ。
「桐山、お前本当、何でそんなにモテるんだよ」
三反田の言葉に納得したように頷く吉国は、ね、と可笑しそうに首を傾げた。
その仕草に心臓を鷲掴みされた俺は、小包を鞄の中に押し込み、二人に背を向ける。
「俺に渡したって、意味ないのにな」
はからずも、そんな言葉を口走っていた。
教科書を取り出す為にロッカーを開けると、小さな袋が足元に落ちた。綺麗にラッピングされていて、誰がどう見てもすぐにそれだと分かるような、可愛らしい小包だった。
袋を拾い、大した感情も抱かずにロッカーの中を見ると、ぎょっとした。小振りの紙袋と、小振りの箱が、ロッカーの中で待ち構えている。
それらを手に取ることを躊躇っているうち、背後からまた、悲痛な声がした。
「桐山、お前って奴は、本当」
何を言いたいのか、三反田は途切れ途切れに言葉を発し、乾いた笑い声を漏らす。
いつの間にか友人たちが俺の周りにたかり始め、バーゲンセールさながらに小包や紙袋を手に取って行く。そいつらがさも自分の物のように小包を確認して騒ぐ中、三反田はその友人達の頭を小突いていた。
「人宛ての手作りチョコは触っちゃダメだって。桐山のために作ったのに、他の奴にまさぐられて、良い気しないだろ」
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