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三反田は真剣な表情で訴えていたが、友人達は聞く耳を持たず、まるでご利益でもあるかのごとくベタベタと触っている。
三反田のこういう所は、俺はわりと好きだった。
「よく分かってるじゃない、三反田くん」
醜い男の群れの外側から、吉国の声が小さく聞こえた。最早条件反射のように肩越しに振り返ると、教科書の束を胸に抱えた吉国が、群れの外で三反田と言葉を交わしていた。
何を喋っているのかは、俺を取り囲む群れのせいで聞こえなかったが、肩を揺らして笑う三反田を見ると、どうにも胸につかえる何かを感じる。
ふたりが話している所はあまり見たことがなかった。だが、随分と親しげな様子だ。このまま、はいチョコレートどうぞ、何て流れにでもなりそうなふたりの世界は、何故だか遠く思えた。
手元に返ってきた小包に視線を落とす。
数を貰えば貰う程、遠ざかって行くような何か。
漠然と感じていた不安はほとんど、確信に変わっていた。
昇降口に近付くと、真冬の風が痛いくらいに吹き付けて来た。下駄箱の扉が風に煽られて開き、ただ寂しく靴だけが入っている中身を晒す。
いつの間にか雪が降り始めていたようで、粉砂糖よろしく屋根や地面に薄くかかっている。
今日は授業がなく、学校自体も午前中で終わりだ。
簡単な行事を執り行うだけで良いせいもあり、男たちは終始、浮かれきっていた。しきりに机の引き出しやロッカー、下駄箱を確認して回り、挙げ句いつ後輩の女子に呼び止められても良いように意味もなく廊下をほっつき歩く始末。よもや、バレンタインだから来たという男の方が多いように思える。
俺もその一人だが。
俺は下駄箱から靴を取り出した。
チョコが入っているであろう袋を抱えた女子達を目で追い、ひとつ、溜め息を吐く。
大好きで仕方がなかったバレンタイン。今日は全く楽しくない。
朝から、今日一番欲しいものが貰えるかどうか、どこか期待と予感を抱いてはいたものの、不安に感じてはいた。それが、貰えないんだという確信に変わり、確信は既に、痛みの伴う悲しさに変わっていた。
これだけチョコを貰ったって満たされないものを、他の誰か、例えば、三反田が持っているとしたら。
多くの女子から貰うよりも、ただひとつ、あいつから貰えるだけで嬉しいその一粒を、三反田が持っているとしたら。
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