第1章

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馬鹿みたいにそんなことばかりを考え、仲良さげに肩を並べるふたりの姿を脳裏から消そうと、降る雪を見上げる。酷い降りようではないが、傘を差さずに歩けば頭や肩に積もるだろう。 もちろん傘は持っていない。 さてどうしたものかと所在なく振り返れば、今まさに下駄箱から靴を取り出している吉国と視線がぱちりと交わった。 願ってもない当人の登場に、多分俺は相当飛び退いたと思う。 吉国は靴を履くと、寒そうにコートのポケットに手を突っ込んで、帰るの?と他愛もない言葉を口にする。それだけで、感じていた寒さが吹っ飛び、溶けるような暖かさが胸の内に差し込んだ。 平静を装って、軽く頷く。 「あ、雪、降ってるね」 俺の隣で立ち止まり、空を見上げて言う吉国。 決してひけらかすことのない可憐さのにじみ出る姿を、思わずじっと見つめてしまう。 「桐山、もしかしてまた、傘忘れたんじゃないの?」 吉国は、迷彩柄の折り畳み傘を開きながら、呆れたようにそう笑う。 「まあ、な」 何とか相槌を打てても、次の言葉が全く出てこなかった。 「全く、あなたって人は。その辺の女に相合い傘頼みなよ。絶対断られないから」 そう言って傘を差し、じゃあね、と言いながら、吉国は一人さっさと立ち去ってしまう。 絶対に断られないなら、言ってもいいんだよな。 異常なまでに心臓が大きく鳴り、躊躇いを感じる瞬間すら躊躇って、俺は一歩、彼女の方へと近付いた。そこで吉国が体ごとこちらを振り返ったので、驚きのあまりせっかく踏み出した足はたちどころに固まる。 「あー、そうだ。まあ、勘違いはしないでほしいけど」 珍しく視線をさまよわせながら言い、俺の方に歩いて来る。 紺色の鞄の中から、ひとつの小さな小包を取り出した。それを俺の胸の前にかざすと、困ったように小さく微笑んだ。 「はい、これあげる。余分に作っちゃったから、余り物だけど」 「え」 自分の手のひらに載せられた小包を見下ろして、絶句する。 吉国の手から、俺の手に渡されたのは、紛れもなく本日バレンタインのそいつだった。 余り物というのは本当だろうし、俺にあげる予定は本来なかったのだろうけど、余り物というたった一枠の対象に俺を選んでくれたのは本当らしく、俺は遠慮せず手放しで喜んだ。心の中で。 実際は得意のポーカーフェイスでいたのだが、恐らくこの嬉しさを隠すことは出来ていなかっただろう。
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