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「お、おう。貰っておくよ」
と答えたは良いものの、吉国が、満足だろう、とでも言うかのように胸を張っていたため、そう確信した。
彼女の言動ひとつで一喜一憂していたら、俺の心臓は持たないのではないか。
多くを貰えることよりも、たった一人から貰えるチョコレートが嬉しいようなバレンタインなど、大嫌いだ。
「あ、村瀬くん」
突然、吉国の声が高くなる。かと思えば、俺のことなど初めからいなかったようにそのまま外へ飛び出し、一人の男の方へ駆け寄って行った。
あいつは確か、同じクラスの村瀬だ。
いつも高級チョコレートの箱を持ち歩いていて、ことあるごとに一粒頬張る、チョコレートへの執着がえげつない少し変わった男でもある。
村瀬は雪が降っているというのに傘も差さず、ましてや吉国に呼び止められて駆け寄ってもらったというのに、笑顔のひとつも見せず、ただ彼女を一瞥すると、再び歩き始めていた。
傘は?入ってく?吉国の楽しそうな声がする。
吉国が傾けた傘に遠慮なく身を寄せる村瀬、そして先程吉国から貰ったチョコレートを交互に見た。
少々、バレンタインで浮かれ過ぎていたようだ。
吉国のチョコレートより、吉国を貰って行きそうな男がいたことに気付けなかった。
やっぱり、バレンタインは大嫌い。
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