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「ダメ……」
もう、無理……そう言って、安姫は倒れた。靴も脱がぬまま、玄関のフローリングに突っ伏して、そのままスースーと、寝息をたてはじめる。
「ぱぱー」
「まま、ねちゃったー」
双子の幼い娘たちが、無邪気に安姫をつつくが、安姫はピクリと動かない。
「安姫……風邪をひくぞ」
言ったところで、一度眠ってしまうと、彼女がそうそう簡単に目を覚ますことはないということはわかってはいたのだが、雷月は一応、妻に声をかけた。
しかし、案の定、彼女が目を覚ます気配はない。
「困ったな……」
抱えて寝室に運びたくとも、雷月には右腕がない。もう少し彼女に意識があったなら、支えて部屋まで歩かせることもできたが、ここまで熟睡されると、それも無理だ。
致し方ない。と、雷月は娘たちに言う。
「家中のクッションと枕とぬいぐるみを、ここに持っておいで」
キラキラと目を輝かせ、娘たちはぱたぱたと部屋に走っていった。
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