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世界
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「で、一緒に暮らす事になったのかい?」
「身寄りがないんだ。面倒見るしかないだろう」
「ああ。よろしく頼むよ…それにしても、モートンにも困ったもんだね」
熱いコーヒーを啜りながら、男はため息を漏らした
コーヒーの飲み方一つにも気品が漂う彼は、この大国ワームで最高位に立つ男である
彼の名はライル=ノート=クライス
金の髪と蒼碧の瞳がその気品を更に際立たせている
宰相でありながら軍の総指揮でもある彼は王らしい派手な服は着ず、軍服に身を包んでいる
「少し舐められすぎているのでは?ライル宰相」
「…僕の事が疎ましくて仕方ないのさ彼は。そもそも僕と彼では思想が違いすぎるからね」
「あの男は海域の略奪に留まらず、他国を従属させようとしている。伴い侵略侵攻も更に積極的に行うべきだと考えているといったところかな?」
「…流石だね」
ヴィルの推察は概ね当たっていたようで、ライルは苦笑いで答えた
「お優しい王様に苛立ちを覚えるのは仕方ない事だな」
「嫌な言い方をするなぁ…」
そんな皮肉にも、嫌な顔すらしない辺りに二人の仲の良さが伺える
「まあ、僕に苛立っているのはモートンだけじゃないからね…」
「敵が多いな。お互い」
「ふふっ、違いない」
「謀反には気をつけるべきだ」
「…まあやがてそうなる日も来るだろうけどね。その時はその時さ」
「…楽観的な男だ」
「そんな話よりも…どうするつもりなんだい?モートンの頼みは
彼女を兵器に?」
「…いや、そのつもりはない。なにせ本人が拒否しているからな」
「……間接的だとしても、殺人を犯すみたいな気持ちになるんだ。誰だって嫌に決まっているね」
「…方針としてはまず世界を教える」
「世界?」
テーブルの上に置かれた小さな時計を手にしながら、ヴィルは言う
「彼女は…あまりに多くの時間を無駄にしている。通常人が学ぶべきことを学べていない…ただひたすらに好奇と憎悪の渦の中で流され続けてきたからだ」
「…悲痛な話だね」
「自分の目で世界を知り、自分の足で歩くことこそ肝要だと言える。兵器云々の話はそれからだ」
「……なるほど。流石だね」
ライルは立ち上がり、コーヒーカップをシンクの中に置き出口へと向かう
「それじゃモートンの方は僕が制しておこう。もしまた僕に黙って来るようなら教えてくれ…今度は本当に処罰する」
「…了解した。宰相殿」
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