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「嘘の雪」
フタバの体に、雪が積もった。それは正真正銘の雪であった。
悲しい話だ。
トマリは、窓の外で積もり始める雪の粒を見つめていた。地面に積もった白の層は、じわじわと大きく深くなろうとしている。白い地表は夜の黒に映えている。外で子供がはしゃぐ声も聞こえる。車は速度を落として走り出す。
部屋の中からは、フタバの寝息だけが聞こえる。
フタバは早々に眠ってしまった。雪が降る夜は毎回こうだった。フタバは眠る彼女の顔を見つめながら、これからどうやって、彼女を外に連れ出そうか、そんなことを考えていた。
雪の降る夜は、どこか格別な、幻想的な印象がある。
街灯が煌々と照る街中も、少し外れた裏通りも、夜景を見渡せる丘の上も、どうにかして彼女と共有したかった。
けれども、彼女は、雪が降っているのを見ると、嫌そうな顔をして、早々に床についてしまう。
彼女は、雪の日は、決して外に出ようとしなかった。
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