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トマリが彼女と出会ったのは、大学時代の秋の頃、そろそろ上着が要る頃のこと。図書館で一緒の本を取ろうとする、そんなありきたりな場面を切り取り、二人は出会った。
「あ、あらごめんなさい」
「僕の方こそ」
「私は、あとで借りるから……」
「いや、君が読めばいいよ」
「……よかったら、一緒に読む?」
打ち解けて、お互いを想うまでの時間はひどく短くて、冬が来る頃には、もう対になり過ごしていた。食事も同衾も繰り返し、いつしか二人は同じ家に住むようになっていた。
冬の頃には、二人の住む街にはよく雪が降った。それも、気温が下がってくる夜によく降り積もり、次の日の朝には白い絨毯が足首まで覆うくらいだった。
初めての雪の日、トマリはフタバを誘って出かけようとした。けれども、彼女はこういうだけだった。
「ごめんね、私は雪の日は、外に出られないの」
最初は、寒いのが苦手なだけなのかとも思った。それでも、雪が降らずとも寒いことはあるのに、そんな日は外に出る。
「どうして雪の日は外に出ないの?」
トマリが聞く。
「今は、言えないんだけれどね」
「言えない?何か事情があるのかい?」
「うん……今はね」
あまり聞かないでおこう。彼はそう思った。どこか後ろめたく、薄暗い感じがした。
それでも、この美しい雪景色を自分一人だけ眺めているのもどうだろうか。
彼女は、また、積もった雪も好きではなかった。できるだけ雪の積もったところを踏まないようにし、雪の塊を掴んでなげるようなこともしなかった。家に帰ると、玄関で丁寧に雪を払っていた。
雪が嫌いなのだろうか。どうして嫌いなのだろうか。
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