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二人が過ごした日々を、少しだけ切り取ってみる。
いつかの夏の日、遠花火が聞こえる場所で、二人は花火をしていた。トマリは、何本も花火をもって、火の粉を散らして遊んでいた。彼は、どこか子供っぽいところがあった。そんな彼を、フタバはにこやかに見つめていた。
二人は、どこか正反対なところがあった。好みや雰囲気も、あまり似ていなかった。それが、二人を引き付けたのかもしれない。あの図書館で出会った時もそうだった。
「ほら、見て。僕はこんな雪国に住んでみたいんだ」
一緒に手にした本を広げ、彼が言う。
「ううん、私、雪は嫌かな。どこか暖かいところがいいな」
「夏は暑いから大変だよ」
トマリは冬が好きで、フタバは春や夏が好き。
そんな風に、二人は対照的だった。
花火をひとしきり終えたら、フタバが線香花火を取り出した。
「私は、やっぱりこれが一番好きだな」
「僕は派手な方がいいね」
フタバがくすくすと笑う。
「本当に私たちって、真逆よね」
「そうだね、それなのにどうして一緒にいたいんだろうね」
彼女は少し赤面しながら、線香花火にロウソクの火を点けた。
ぱちぱち、という音がして、火花が心細く散る。
「私は、線香花火が、まるで自分みたいに思えてくるの」
「どういうこと?」
「私はね、昔から体が弱くて、大変だったの。この花火は、そんなか弱い私みたいで……どこか嫌いになれなくてね」
「そうか、けど今はもう大丈夫なんだ」
「そう、そうよね……」
あ、という声を上げると、線香花火のほのかな赤色は地面に落ちて、あたりを闇が覆う。
「もう落ちちゃった」
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