1

4/12
前へ
/12ページ
次へ
 二人が過ごした日々を、少しだけ切り取ってみる。  いつかの夏の日、遠花火が聞こえる場所で、二人は花火をしていた。トマリは、何本も花火をもって、火の粉を散らして遊んでいた。彼は、どこか子供っぽいところがあった。そんな彼を、フタバはにこやかに見つめていた。  二人は、どこか正反対なところがあった。好みや雰囲気も、あまり似ていなかった。それが、二人を引き付けたのかもしれない。あの図書館で出会った時もそうだった。 「ほら、見て。僕はこんな雪国に住んでみたいんだ」  一緒に手にした本を広げ、彼が言う。 「ううん、私、雪は嫌かな。どこか暖かいところがいいな」 「夏は暑いから大変だよ」  トマリは冬が好きで、フタバは春や夏が好き。  そんな風に、二人は対照的だった。  花火をひとしきり終えたら、フタバが線香花火を取り出した。 「私は、やっぱりこれが一番好きだな」 「僕は派手な方がいいね」  フタバがくすくすと笑う。 「本当に私たちって、真逆よね」 「そうだね、それなのにどうして一緒にいたいんだろうね」  彼女は少し赤面しながら、線香花火にロウソクの火を点けた。  ぱちぱち、という音がして、火花が心細く散る。 「私は、線香花火が、まるで自分みたいに思えてくるの」 「どういうこと?」 「私はね、昔から体が弱くて、大変だったの。この花火は、そんなか弱い私みたいで……どこか嫌いになれなくてね」 「そうか、けど今はもう大丈夫なんだ」 「そう、そうよね……」  あ、という声を上げると、線香花火のほのかな赤色は地面に落ちて、あたりを闇が覆う。 「もう落ちちゃった」
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加