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病室の外では、雨が降っていた。
「どうして……実家に帰りたくないんだい?もしかしてご両親とは……」
「そんなことないわ。二人とも、大好きだもの」
「じゃあ、どうして?」
雨音が聞こえたあと、フタバが口を開いた。
「あの雪を、もう見たくない」
「以前言っていた、嘘の雪かい?」
フタバは、少し涙ぐんでいた。
「……私の住んでいたところは、夏でも雪が降っていたの。嘘の雪が……。それが降っている日は、絶対に家から出ちゃいけないって言われたの。それがずっと怖くて……特に、雪の降った夜の日は、町中にサイレンが鳴って……あんな場所、あんな雪、本当に嫌だったの」
「だから、あんなに雪の夜は嫌だったんだね」
「夜も嫌だった……雪が降って積もるのも嫌だった……」
「そうか……」
「だから、ここにいさせて、お母さんとお父さんには、私から話すから」
半年という寿命、それなのに彼女に故郷に帰らせない場所。そして、夏にも降る嘘の雪、それが何なのか、トマリにはわからなかった。
「それで、いいのかい」
「うん」
後は、雨音がずっと鳴っているだけだった。
時計の針は、もう夜中を指していた。
「ねえ、トマリ」
「どうしたの?」
「次の冬が来るまで、私は生きていられるかな……」
「生きて……いられるさ……」
「じゃあ、本当の雪を見られるかな」
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