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夏の日に生い茂った青葉は、もう枯れてしまった。
フタバは、もう病室から出られなくなっていた。
体にはいくつもの点滴が打たれ、心拍数は常に測られ、口には呼吸器が繋がれていた。彼女は、もう機械を無くしては生きていけなかった。
トマリは、毎日この病室に来ていた。彼女の最期はこの場所で迎えることになった。両親と話をし、彼女に声をかけることが日課になっていた。
最近、フタバはほとんど話せなくなっていた。薬の副作用で喉が荒れ、今までの声は出なくなっていた。髪も抜け落ち、ニット帽を被っていた。それでも、あの日の宣告から半年以上も保っていることは、医者に言わせると異常だというのだ。
体をつんざくような冬の日に、彼が病室に入ると、彼女はベッドにいなかった。
彼女は、車椅子に座っていた。
「フタバ、どうしたの」
彼女は、とても優しそうな表情で彼を見た。
頬は痩せこけ、目の下には隈ができていたものの、その表情は、とても優しかった。
「私ね、雪を見たいの」
「今日は……降っていないよ」
「それでもいいの、雪を……見たいの」
薬の影響か、たまにフタバは脈絡のないことを話す時があった。トマリは、もう見ていられなかった。
「だから、今日は降っていないんだ……」
目から涙が零れた。思わず、病室の真ん中で、彼は咽び泣いた。
フタバは、やせ細った腕で車椅子を動かし、彼に近寄って、
「大丈夫、今日は、降るわ」
トマリは、フタバの乗る車椅子を押し、エレベータのボタンを押した。エレベータが来るまでの時間が、彼には永遠に思えた。
「さあ、行きましょう」
少し錆ついたエレベータの中に入ると、彼女は屋上のボタンを押した。
エレベータが動く。
「大丈夫、今日は降るから」
ドアが開くと、彼の頬に冷たいものが伝った。
外は、雪が降っていた。
「ほらね、私の言った通り」
「……そうだね」
「さあ、外に行こう」
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