0人が本棚に入れています
本棚に追加
彼は答えず、じっとこちらを見ていた。何かを考え込むように、真剣な眼差し。そして、しばらくの後やっと口を開いた。
「…観覧車とかどうですか」
「あーいいですね。多分イルミネーション綺麗に見えますよ」
七美がそう言って頷くと、彼はやっと少し表情を緩めた。ふと、七美は何かを思い出しかける。
「多分並ぶし早めに行きましょう」
しかし彼に促され、七美はその欠片をすぐに見失った。軽く首を振り、彼の後をついていく。
多分、思い出したら辛いこと。そして今は、思い出さなくていいことだ。
七美は彼の隣に並ぶと、深呼吸をした。
白い息が記憶と共に夜空へ溶けていくようだった。
〇
最初のコメントを投稿しよう!