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その思いとは裏腹に、ほんの少し、ほんの僅かだけどなにかを期待しそうになる自分がいた。それがすごく悔しくて、空しくて…七美は意を決し、スマホのボタンを強く押す。
――スマホの画面が真っ暗になり、完全に電源がオフになった。七美はその画面を見て、泣き出しそうになるのを必死でこらえた。
これで良かったんだ。全ては終わり、そして…。
「ごめんなさい遅くなりました!」
突如耳に飛び込んでくる、真っ直ぐな声。七美はゆっくりと顔を上げた。
息を切らし、肩を上下させている。七美はそんな彼に目を細めて微笑んだ。
「…いえ。ありがとうございます」
ありがたく受け取ったココアの缶は、冷えきった体の芯までじんわり暖めてくれる。そんなことを思うと、七美はまた涙ぐみそうになった。
「…本当に、ありがとうございます。あったまります」
少し震える声でつぶやく。彼がそれに気付かないことを祈りながら、ココアに口をつけた。
「はい、お次の方どうぞー」
いつの間にか七美達に順番が回り、二人はゴンドラに乗り込んだ。そしてゆっくりと動き始めた観覧車に、七美は歓声を上げる。
「…お願いがあります」
唐突な彼の発言に、七美は驚いて彼の方を見た。
「なんですか?」
「…少しだけ、俺の話を聞いてもらえますか」
七美は目を見開いた。
「このゴンドラが下に行くまで。降りたら、全部忘れてください」
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