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――最初は0歳の頃、CM出演だったそうです。もちろん記憶はないけれど。 それからちょくちょくCMやドラマに出させてもらってて、他の子とは違う人生を送るんだとぼんやり思ってました。 けれど、そんなに甘くはなかった。 仕事がある時はずっと学校に行けなくて。学校へ行っても、「あいつはテレビとかに出てる奴」だと知られてて、一歩引かれてて。 しばらく仕事がなくて学校行き続けてると、売れてないって思われるのが悔しくて。 段々と仕事が減っていくのに、学校にも居場所がない。イベント事はほとんどやったことがなくて、「普通」がわからない。 いつの間にか高2になり、来年度は進路を…未来を決めなければならなくなった。でも、自分には何もない。 クリスマスは毎年所属事務所の小規模な舞台をやっているんです。だから普段暇でも、クリスマスは一応仕事。 「でも、突然全てに絶望して、気づいたらあそこにいました」 七美は口元を覆った。――あの涙は、気のせいなどではなかったのだ。 彼は一気にそこまで語ると、息を吐いた。視線を窓から、正面に座る七美に移す。その目は真っ直ぐで、でもどこか達観したような――静かな凪の海のようだった。 「…だから今日は、本当に楽しかったし嬉しかったです。あなたに会えてよかった」 七美は自分が涙を流していることに気がつかなかった。言葉を必死で紡ごうとするのに、声にならない。 地上はもうすぐそこだった。七美は咄嗟に、彼の手を握る。彼は驚いたように七美を凝視した。 「…私も、会えてよかったです」 彼の姿が滲む。 「短い間だったけど、すごく楽しくて、辛いことを忘れられました。…私は芸能界のことはわからないけど、あなたを見て同じように思った人がいるはずです。だから」 きっと、ひとりではないです。 七美がそう言い切ると同時に、ゴンドラの扉が開いた。冷たい風と、小さな雪の結晶が流れ込んでくる。 係員の誘導で二人はどちらともなく外に出た。 その手は、握られたままだった。 〇
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