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遊園地の出口を出て、二人は無言のまま駅へ向かう。そして改札の少し前で、手がぱっと離された。七美の指先が急速に温度を失っていく。
「…すみません」
彼はこちらを見ずに謝った。七美の脳裏に、さっきの言葉が甦る。
…ゴンドラを降りたら忘れてください。
七美は焦燥感に駆られ、口を開こうとした。その時、
「これ。よかったら、どうぞ」
突然彼が赤い包みを差し出した。七美は意味が分からず、彼の目をじっと見つめる。
「ささやかなお礼です」
七美は戸惑いつつも、受け取って包装紙を慎重に開いた。出てきた箱も開けると…。
「――スノードーム…」
遊園地のキャラクターが閉じ込められた小さな半球。逆さにして戻すと、ちらちらと白い雪がキャラクターに降り注いだ。
「飲み物買ったときに隣で見つけて。…なんだか運命的だなって」
彼の説明に、七美の涙腺は崩壊した。
たまたまあのツリーの下で出会って、なりゆきで一緒にイルミネーションを見て。ただ彼の話を聞くだけで、なにもできなかったのに。
「本当にありがとうございました。…じゃあ、俺はこれで」
彼が踵を返し改札内へ向かう。七美は咄嗟に、彼を呼び止めた。
「…待ってください!」
彼が立ち止まって振り返る。七美は駆け寄り、腕を引いて彼を自分の至近距離に寄せた。
「…私、あなたと――」
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