コーヒーの香りと「黄色いゼラニウムを添えて」

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「…どうされました?」 呼びかけられて、はたと気が付く。目の前には心配そうな表情を浮かべた彼。 「真っ青な顔をされていたので。ご気分が悪くなったのかと」 「…いえ、少し昔を思い出したみたいで」 「…そうですか?」 なおも気遣う様子の彼に、“大丈夫ですから”そういって、心配かけないように無理やりに笑顔を作る。 「…もう、私には、関係ない話ですし」 握っていたグラスの氷が私の手の熱で溶けたのか、からんと音が鳴った。 「わ…もうこんな時間」 その後、アイスコーヒーを堪能しつつ、しばらく世間話をしていたが、気が付けば20時を指そうとしていた。さすがに、これ以上居座るのも申し訳なくなり、立ち上がる。だいたい喫茶店って、そんなに夜遅くまでやっているイメージないし。 「この店の閉店時間って何時だったんですか?」 「本来は、19時ですが、私の気のすむまでですから、気にしないでください」 「わ!1時間もオーバーしてしまってる!ごめんなさい!」 “そろそろ、お暇します”と片手に財布と片手に2つのエコバックを抱え、レジへと向かう。入ってきた扉の目の前に、レジが置かれている。会計をしてもらい、さぁ、帰ろうかと扉の方に足を向けて“ソレ”に気が付いた。 来たときには気が付かなかったが、扉のすぐ真隣にガラス張りのショーケースがあったよう、その中に、何かが並べられていた。
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