コーヒーの香りと「黄色いゼラニウムを添えて」

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「覗いてもいいですか?」 「いいですよ」 快諾する彼に甘えて、近づいてみれば、「わぁ…」と思わず、感嘆の声が出た。 「…素敵ですね。人形ですか?」 ショーケースの中には、30センチほどの数体の人形が箱に入れられたまま飾られていた。左から順に眺めていく。 「…ん!?」 すると、その中の一体と、一瞬、目が合ったような気がした。白いタキシードに身を包んだ亜麻色の髪の空色の瞳を持つ人形と。 「…まるで生きているみたい」 思わずつぶやく。気のせいだろうが、確かに、目があったような気がしたのだ。亜麻色の髪の人形だけではなく、ほかの人形もかなり精巧に作りこまれている。身に着けているものはもちろんのこと、表情も全く違うが、共通して言えるのが、どれも幸せそうに笑っている。そして、亜麻色の髪の彼がひと際幸せそうに微笑んでいるように見えた。 「大切にされ、想いの詰まったものには、いつしか心が宿るものです」 「素敵ですね、その考え」 “ふふ”と笑えば、彼は穏やかに微笑んで、一つ提案してきた。 「どうです?せっかくです、お嬢さん。気に入った人形があるのなら、一体、持ち帰ってもいいですよ?」 「え…!?アンティークの人形って、すごく高いんですよね!!」 しかも、これだけ精巧な人形だ。下手したら、軽自動車くらいなら、一台買えそうだ。 「いえいえ、彼らは、同居ドールですよ、お嬢さん」 「同居ドール?」 聞きなれない単語に、オウム返しで繰り返した。同居ドール?同居人形?同居する人形ってこと? 「彼もお嬢さんと一緒に居たいみたいですし、ね?」 そういって、彼が指さすのは、亜麻色の髪の髪に、空色の瞳を携えた一体の人形。 “ね?”と念を押されれば、断るわけにもいかず、“じゃあ、お願いします”というと、彼はショーケースから、亜麻色の髪の人形を取り出す。その空色の瞳を見ると、きらりと光ったような気がした。
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