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私が住んでいる部屋は、1LDK。最寄りの駅から遠く、交通の便が悪いということもあり、この間取りで、4万円という格安物件で、貯金を切り崩しながら、どうにか生活をすることができている。寝室のすぐ隣にリビングがあり、キッチンが隣接している。ドアノブに手をかけようとすると、キッチンで何やら音が聞こえている。ちょうど、沸騰したのか、ケトルの音が聞こえる。間違いない。母だ。うちで料理をするのは。そんなことを思って、ドアノブをひねり、キッチンに立っている人物に声をかける。
「来るなら、連絡し…」
そう言いかけて、思わず立ち止まった。キッチンに立っているのは、母だろうと思っていたが、母なんかより、はるかに高い身長。腕まくりした白シャツからのぞく筋肉は、女性のものじゃない。むしろ、母は、贅肉がついてきている。いや、そんなことは、どうでもいい。そんな些末なことはどうでもいい。
「…誰?」
思わずたじろいて、後ろに一歩下がる。
一つ、自分自身の発見。驚くと大声出せない。急に、頭が混乱すると行動できない。まるで、他人事のように分析する。
物音に気付いたのか、彼はゆっくりと振り向く。
「おはよう。マスター」
そして、すぐに人懐っこい笑みを浮かべる。柔らかそうな少し長めの甘栗色。瞳は、プルートパーズのように澄み切った蒼。どこかで、見た気がする…。でも、いったいどこで…?人懐っこい笑みと甘栗色の髪色のせいか、犬を連想させた。こう、大きめの大型犬。とりあえず、襲ってくる様子もない。人懐っこい犬を連想してしまったせいか、もしくは、彼から発せられる人畜無害臭か、警戒を一瞬で解いてしまった。そして、彼が発する言葉の中で気になるワードがあり、彼におそるおそる尋ねる。
「…マスターって、もしかして私のこと?」
「そうだよ?もしかして、忘れた?」
すると、彼はきょとんと不思議そうな顔をする。きょとんとしたいのは、こっちの方だよと突っ込みたいのを一旦飲み込んだ。
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