コーヒーの香りと「黄色いゼラニウムを添えて」

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「芸術の秋」、常日頃から「画伯」として称賛されている私だ。以前、先輩の大学の卒業式で色紙を書く際に、かわいいうさぎのつもりで書いた絵が、「なに、地球外生命体」といわれたのは、記憶に強烈に残っている。もちろん、この「画伯」とは、辞書に載っている「絵の道に優れた人」という意味ではなく、「独特の絵心を持った人」という意味で使われている。とどのつまり何が言いたいかというと、芸術という言葉も似あわない言葉である。 「読書の秋」、愛読書は、漫画である。以上。 というわけで、私が思い浮かぶ秋といえば、「食欲の秋」なわけで…。 「…しまった、食料が尽きた」 つい先日、大量に買い込んだはずの食料が、いつの間にか底をついていた。小腹がすいては、食べていたのが、仇となったか。ついつい食べすぎてしまっていた。「食欲の秋」だから、仕方がないと自分に言い訳をする。「食欲の秋」…、なんて便利な言葉だ。 「この時間から出るの面倒だな…」 窓の外を見れば、すでに空は茜色。夕焼けに染まった町並みが見える。 壁にかけてある時計を見れば、17時5分を過ぎていた。 「…ま、時間はたっぷりあるもんね…」 “…私は”小さく独り言ごちて、クローゼットの中のキャメル色のジャケットを取り出した。 スポーツの秋だというし、少し歩くか。運動嫌いとは言え、たまに、体を動かさないと、おなかが出てしまったら嫌だし。徒歩で片道20分。少し歩くには、丁度いい距離だ。
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