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「ジャケット着てきて正解だった…」
必要な食料を買い込みスーパーから出てみれば、外はすっかり真っ暗闇。日が落ちるのが早いななんて思う。昼間は暖かいとはいえ、夜になると気温が下がる。秋だ、秋だと思っていたが、もう少しで、冬だしな。そして、一つだけ反省。
「…買い込みすぎた」
「はぁ…」と、ついため息が出た。私の両手には、パンパンに張ったエコバック。時間が時間で、ちょうどタイムセールや値段が落ちた激安食品が多く出ていて、ついつい買ってしまった。しかも、歩きだ。誰だ、歩くとか言ってた奴。これなら、車で来るべきだったなと反省。後悔しても遅い。仕方がないので、普段は車で通りすぎてしまう道をゆっくり歩く。
自宅マンションまで、あと10分の距離にたどり着いたところで、ふわっと何かの香りが鼻をかすめた。
「…この香りは」
ふわっと香ってきたのは、ほろ苦い匂いコーヒーの香り。匂いのもとを辿れば、10メートル先に、それらしい建物があった。
「あれ…?こんな店、ここにあったっけ?」
行きは、反対側の歩道を通ってきたから、気づかなかった。私の記憶が正しければ、ここは空きテナントだったはずなのだが。いつもは、車で通るから定かではないが。看板を見ると、「喫茶 ゼラニウム」と書かれている。どうやら、喫茶店のようだ。というか、ゼラニウム…?なんだそれ?マグネシウムの仲間か?新しい栄養サプリメントみたいな名前だ。
メニューを見ると、コーヒーのほかにも軽食もあるようだった。
「マカロニグラタン…か…」
そういえば、最近食べていないなとふと思う。一人暮らしなので、自分が食べるだけだし、さほど手の込んだものは、作らないし。
貯金を切り崩すことになるから、あまり外食はしたくはないという気持ちも働くわけで…。
う~ん…と悩んでいるとタイミングよく、“ぐー”とお腹が鳴った。しかも、結構大きい。まるでいいんじゃない、とでもいうように。
「……」
恥ずか死ぬ。思わず、お腹を押さえて、当たりを見渡す。幸いにも、当たりの騒音で聞かれてはいないようだった。
「食欲の秋っていうしね…」
それに、またこれから歩いて帰らなきゃだし。カロリーも消費できるしね。腹が減っては戦はできぬとかいうしね。誰も聞いていないけれど、心の中でありったけの言い訳を並べて、「喫茶 ゼラニウム」と書かれた店の扉に手をかけた。
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