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当然あの後、恥を大勢の前でかきにかいたお兄さんに無理矢理に路地裏へと俺は押し込まれた。
連れて行こうものなら一発殴って終わりなのだが、大勢の目とそこから逃げる自信が今日はなかったので、大人しくついてきた訳だが。
不満と怒りで頭がいっぱいの男が、一発殴って終わりとはならなそうだ。
「お前のせいで……俺は!もう、許すか。あの時に大人しく金を出してたら良かったのによ!」
そう言って男は叩きつけるように俺を壁に強く押し付けた。
石造りの硬い壁、その衝撃で一瞬息が途切れた。
痛いっ!
掴もうとする手は見えていたけど怠い身体のせいで反応が遅れてしまう。
体格は良いとは言えないけれど、やはりいい大人の力はそれなりに強いもので、下手すれば病院送りの可能性は決して低くはない。
さて、どうする。
この追い詰められている中、時間を稼ぐにしても逃げることも反撃することすらも出来ないかもしれない。
それに明人には『もしも』と言ったが真意に気づいてくれるだろうか。
「おいおい、どうしたよ。こんなことで落ちるなよ。まだまだだよなぁ?」
次は蹴り。
俺が仕切り直す前によろけたところを狙って、腹を蹴る。
内臓が弾けたかと思うほど痛かった。真っ直ぐ立ってられなくて、手をついて四つ這いになる。
そして喉からなにかが迫り上がって感覚に襲われ、えづく。どんどん口の中が酸っぱい味が広がり、余計に気持ち悪さが増した。
「うわー気持ち悪いな。吐くなよ。」
俺の髪の毛を掴み上げて男はニタニタと気持ち悪い歯を見せて笑う。
意識はあるけれど、いい加減にしないと飛ぶな。
嗚呼、本当にうざいな。
「あはっ、あははは。」
「なんだよ!きっ気持ち悪りぃ。」
突然笑い出す俺に不気味そうに男は一歩引く。
笑うしかないだろ。こんなにコケにされたの久しぶりだ。
狭く暗い路地裏で声は反響する。定まらない足元でよろよろと俺は立ち上がる。それでも笑いは止まらない。
「笑うな!」
殴ってくる。
次は何か、もう先に読んでいた。だから、遅れるというなら先に行動してしまえばいい。
「カッ!」
「ワンパターンなんですよね。貴方。」
ぶっきらぼうな拳を交わし男に飛びつき、男の腹に全体重をかけて俺はのしかかる。
俺の手は自然と首に差し掛かった。
「はなせ、どけよ!」
さっきの威勢は何処へやら、動けなくなったと確信した男は情けなく下で喘ぐ。
「では、さっきのお返しです。お兄さん、早くいかないでくださいね。」
「あっがっ!」
次々と出てくる拳をかわしながら、俺は力を込めた。
ギリギリと首骨が軋む。
「しっしぬ、やめっ!たすけてっ!」
「大丈夫、この程度で人は死にませんよ。これで死んだところ見たことないので。
でも、力加減を間違えたらすいませんね。」
もがき苦しみながらバダバタと必死に手と脚を動かすけれど無意味。
「っつ!」
「どうしたんですか。息が吸えなくなってきましたか?もう、ディープの時は鼻からですよ。」
教えてもらえなかったんですか彼女に、囁けばぶるりと男は身を震えさせた。
涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔、生理的なのか。
それとも死の恐怖か。
「もしも、死んだ時は一緒に落ちてあげますよ。優しいでしょ?」
口から泡を吹いて、もう答えはしてくれない。
心が昂る。強いと思っている奴の鼻を折るのは特に好きだ。
自分は恵まれているという自信から、絶望に変わる顔は何より最高だ。
だからもっと、楽しませてよね。
「おとぎり。」
うるさい。
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