4話 羨望《前半》

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「起こし方を考えろ。」   ベッドの縁に帝は座ると、太々しく股を開き腕を組んでは険しく眼光を光らせた。 俺は俺で先程のことを反省させるため、その下で正座させられた。 正座させられても、圧倒的にこっちが悪くても、謝るより先に文句が言いたくなるのが俺。 「貴方が起きないから悪いんじゃないですか。第一、寝ぼけてセクハラまがいのことしようとしてましたよね。」 「口答えするな。」 頭を掴まれ、押さえる様に力を込められた。普通に痛い。 「なんでお前は口を開けば、憎たらしい言葉しか出てこない。『す』の字すら貴様の中に無いのか。」 「では、『好き』と言えば許してもらえますか?」 途端に力が緩み無言のまま頭を叩かれた。疲れた様にため息一つ付いて、帝は再びベッドに寝転ぶ。 どうやら効果覿面の様だ。 意外にこれはこれで彼に対しての俺が持ち得る唯一の武器なのかもしれない。 「そんな、ため息なんて酷いです。せっかく、『好き』って伝えたのにううっ」 「うるさい、黙れ。」 俺が茶化してもいつもの様に蹴りや殴りは返ってこない、飛んでくるのは生気のない罵倒。 「それより、先輩。なんで俺がここにいるのか答え合わせしましょう。というかなんであの時いたのですか。」 寝転ぶ彼の横に四つん這いでのそのそと近づく。虚な彼の視線がこちらに移ると事の細小を言い始めた。 「先ず、明人からお前がまた面倒なことをしようとしているから助けてって連絡が入ったんだよ。」 「はぁ?明人が先輩を呼んだんですか。」 「そうだ、このままでは人を殺しかねないとまで言われたからな。」 明人っお前、せめて連絡するところを考えろ。警察の方がまだありがたいは、と心の中で叫ぶ。 「来てみれば、フラフラのお前が男の首を絞めて殺そうとして訳だが。」 「あーそこまでは何となく。アレはちょっと腹が立っただけで殺そうなんて思ってないですからね。」 「……」 「まぁ、次に移りましょう。その後、俺は気絶して貴方にここまで運ばれた良いですか?」 「そうだ。運んだ時に医者に見てもらったが、頭と腹の外傷だけだ。」 特に命関わる様な傷はない。改めて傷を確認するとこめかみのところに小さな傷と、腹が青紫になっているだけだ。 多少痛むが、普段通りに動き回るぐらいは全然大丈夫そうだ。 「あいつ、明人は何かしてるのか。」 何かを思い出したのか、突然漠然とした質問がきた。 「何かって何ですか。」 「気絶したお前を連れて行こうとしたら、男が突然起きた。 起き上がったと思えば訳がわからん事を喚き散らして殴りかかってきたが。」 気絶した俺を運んでいた帝の両手は塞がっていた為に殴られる覚悟でいたらしい。けれど一向に体に衝撃がこないと思っていたら、素早く横から明人が盾になったらしい。 そこから、凄いのがわざと男の拳を手で受け止めてからの、掌を使って顎から打つ様にくらわせた。そして男はまた地面におねんねする事になった。 その時の衝撃で男が宙に浮いた事のを初めて見たと帝は少しばかり目をキラキラとさせて話していた。 俺は明人のそれを期待していたのだが、何故か帝を呼んでしまい、時間は遅れ殴られ、全てが誤算だった。だから男をころしかけた訳だ。 「今は陸上メインですけど明人は色々やってますよ。柔道、合気道とかその他もろもろ。」 「だろうな、動きが素人じゃなかった。」 「そのおかげで何度か助けてもらってますよ。」 「最悪な兄貴だな。」 「まぁそこは兄貴じゃないですし、あいつも兄貴なんて思ってないですよ。」 「そうだな、くそ迷惑な身内だな。」 「そう言われると、酷いな。」 俺の頭を何故か優しく撫でる、帝。 そして、 「で、お前はあの時の格好はなんだ?俺に分かりやすく詳しく説明しろ。」 ニッコリと笑いかけてくる。 まずい、非常にまずい。 俺は悪寒で寒くなり、背中に脂じみた嫌な汗が流れ始めた。
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