4話 羨望《前半》

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体育祭の時、カメラ君こと勝山が下手を打って帝に事実を話せば困る。絶対に邪魔されると踏んでいたからだ。 けれど俺が勝山を庇えば彼の疑いは深くなるだけ、じゃあどうしたらいいか、簡単だ。 誰かになりすまして庇えば良い。その時の帝は太陽の熱で気分が悪いことを知っての俺は大手にでた。 一か八かだったが、鼻のにぶった帝はまんまと騙されうまい具合に話は流れその場を回避する事は出来た。 そう、これはその時バレるより後でバレる方が恐ろしい賭けだった。 いつまで秘密にできるか、当たり外れの賭けというか願いに近いかもしれない。 お喋りな勝山が喋らないことを願ったが、意外な形で自分からバラしてしまった訳だが。  「えーとですね、イメチェン?」 「ハッ、イメチェンね。」 不自然な語尾に鼻であざ笑う帝、撫でる手が優しく俺の髪の毛を解きほぐす。 確信できる事はかなり怒っている、青筋を浮き上がるぐらいにはブチ切れている。 怒りとは真逆の顔でニコニコと笑いかけてくるが目の奥が全然笑ってない。この妙な怒り方は謎だ、この人が分からない、どう言えば良いのか俺は戸惑いを隠せなかった。 手つきも力を加えたり、爪を立てたり、叩いたり、暴力は一切しない、ゆっくりと動かし丁寧に指先まで力を抜いている。 「えっと、前も含めてかなり怒ってますか。」 「さて、お前はどう思う?」 次は穏やかな口調で説いてきた。気持ち悪い、鳥肌が立つ。 言葉が見つからない、ここで全てを白状し許しをもらうために必死に懇願すれば彼は許してくれるのだろうか。 いや、無理だ。 だって、どんな言葉であろうとどうでもいいと王様の顔に書いてあるから。 「今日は天気いいですね。」 頭をシーツの海に沈められた。 あの時何故変装しなくてはいけなかったのか、謎なんてどうだっていいのだ。彼は騙された事に気づかなかった自分が悔しくて、気分を憤慨しているのだ。 そう、彼の大事なプライドを傷をつけたわけだ。 「いい加減にしろよ、そんなに殺されたいか。なぁ、なんとか言ってみろ」 きっと頭上で俺を剣幕たてて見下したいるだろう。 てか、シーツに押しつけられているのだから喋る事はできない訳で、説明すら必要ないという事だろう。 物理的に息が止まる俺はバタバタと手を動かして抗議した。 「これまで散々忠告をしてやったんだ、覚悟しろよ。 やっぱり、一つ一つばらした方がお前は良いようだな。」 ばらすって何をですか。 恐いのですけど。 「ばらしたところで後が楽しくないからしないがな。 いや、手足を切り落として監禁もありか。」 王様の一人語りは恐いどころの話じゃなくなってきた。法に触れることをさらっと言ったこの人。 というか、息がっ。 「どうせ歩き回るんだ、跡のつけた方が早いか。」 意識が若干飛びかけて最後の言葉は聞こえなかったが、なんか納得した帝はやっとシーツ海から解放してくれた。 「先輩?」 帝が喋らない不思議な間に顔を上げると、にこやかだった。あの日、神社でみた笑顔とダブったのは気のせいだろうか。 思わず後退る。尾骨から首骨までゾクリと冷たい物が駆け抜けたからだ。 食われる事もない平和な暮らしで鈍くなって使えない筈の野生の感が、奥底から叫んでいたこれは危ないと。 「あの、謝ってすみますか。」 「済むと思うか?」 「すまないですねアハハ。こっちに来ないでください。」 いつも主導権を握る俺が、二回もしかも同じ男に押し倒されました。
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