プロローグ

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「まだ、初夏というのに毎日蒸し暑い日が続きますね。そんな時にあえて、こんなマジックはどうでしょうか?」 都内某所、マジックバー『ゴールデングース』のカウンターにて、20代の青年が得意気に口を開いた。 「想像して見てください。今日は雪の降りしきる寒い冬の大晦日と。そして、靴を無くし、裸足でマッチを売らなければならない少女の事を。」 黒の革ベストにブルーの蝶ネクタイ姿は如何にもマジシャンと言った感じだ。 端整な顔立ちをしており、嫌みの無い笑顔を振りまく姿は、男性アイドルグループにいてもおかしくないだろう。 その容姿のせいか、彼につくお客は若い女性ばかりで、今夜もまた女子5人組に囲まれていた。 「マッチはいかがですか?マッチはいかがですか?」 青年マジシャンはマッチ箱からマッチを1本取り出した。それから、客の目がマッチに集中するよう少し高く前に突き出した。 「誰か、マッチを買ってください。」 青年マジシャンは切れ長の瞳にかかる髪の毛越しに、今晩の相手を物色した。 左から、ごく普通、チョイブサ、カルかわ、ゴリブサ、地味美人。 「フッと、一息吹きかけるだけで燃える、魔法のマッチはいかがですか?」 青年マジシャンはそう言って、マッチにふっと息を吹きかけた。 すると、マッチにぱっと火がつき、勢いよく燃え上がった。 客の笑顔と驚きの表情が炎に照らされる。 青年マジシャンには右端の女性が特に妖艶に映って見えた。 いつもなら、カルそうなかわいい系を選ぶのだが、今夜は何故か地味な顔立ちの美人系女子にセンサーが反応した。 よし。今日は地味美人にしよう。 青年マジシャンはナンパする相手を決めた。
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