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「ご主人様。浩介を捕まえてきました」
「ご苦労」
屋敷の駐車場で、俺を出迎えたのは実に意外な人物であった。俺は思わず声を上げてしまう。
「な、何で俺がここにいるんだ」
俺の目の前に現れた人物は、俺と瓜二つの姿をしていた。だが、性格は俺とは違う、物静かで常に礼儀正しい人間だ。
「手荒な真似をして連れてきたことを、詫びましょう」
「そんなことは、どうでもいい!なぜ、俺がここにいるんだ!」
「そのことをも含め、私はアナタに相談したいことがあって、ここにお連れしました」
俺は俺に良く似た青年に言われるがまま、屋敷に案内された。
屋敷は豪華な造りで、如何にも金持ちが住んでてそうだ。長机が置かれた応接間まで案内されると、俺は椅子に座らされた。
「まず自己紹介をしましょう。私は、康作と言います。顔が似ているのは、他人の空似です。私も、ビックリしました。あなたが、殺人犯として指名手配されている写真を見た時は」
「顔が似ているのは偶然か。それで、その康作さんは俺を屋敷に連れ込んで、警察に連絡をでもするつもりなのか?」
「もちろん。殺人犯ですからね」
全く、とんでもない話だと思う。金持ちの道楽に付き合わされて、俺は警察に捕まってしまうのか。とはいえ、康作の付き人と思われる男には、勝てる自信はない。
「諦めて刑務所に入るしかないのか」
「いえ。刑務所に入るのは、私です」
俺は一瞬、耳を疑った。
「今、何て言った?」
「ですから、私があなた、浩介として警察に逮捕され刑務所に入るのです」
「冗談はよしてくれ」
いくら、金持ちの道楽だとしても冗談がキツすぎる。金持ちが俺の代わりに、刑務所に入るだと?そんなウソが信じられるか。
「冗談ではありませんし、私は至って、正気です」
康作は俺の心を見透かしたように言う。俺は、ただただ、苦笑いを浮かべるしかない。
「はははは。だったら、聞かせてもらおうじゃないか。どうして、俺の代わりに刑務所なんかに入りたい」
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