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「私は、ご覧の通り、豪華な屋敷に住み、苦労せずに、これまで育ってきました。しかし、それはレールの上での人生。私は、前々からその人生に嫌気が差していたのです。だからといって、全てを投げ捨てて生活することもできない。私という確立した地位が、どんな仕事についても優先的にいいのを回してしまうのです。失踪したとしても、私の知り合いが私を捜し出してしまう。実に辛い人生です」
「俺からしてみれば、お前の人生の方が素晴らしいけどな。憎らしいほどに」
「私からしてみれば、あなたの方が素晴らしいチャンスだと思います。これまでの人生を一度、リセットした上で全く新しい人生を歩めるのですから」
「元殺人犯としてか?そんな奴にどんな人生があるというんだ」
「そこです。私は、あなたのこれからの人生が羨ましい。そして、あなたは私のこれまでの人生が羨ましいと思っている。そこで、提案です。私とあなた、人生を入れ替えませんか?」
康作は俺に突拍子もない提案をしてきた。
「俺との人生を入れ替えるだと?」
「はい。偶然の一致か、私とあなたは顔が非常に似てます。あなたが、私、康作となり、私があなた、浩介となるのです」
「ちょっと、待ってくれ」
何だか頭が混乱してきた。康作は大真面目に俺との人生を交換したがっているようだが。
「つまり、俺がお前に成りすまして、お前を警察に売り渡すのか」
「ええ。浩介は盗みの為に、屋敷に侵入。そこで、屋敷の主である康作に発見され、その場で取り押さえられ警察へと連れていかれるという筋書きです」
「そう上手くいくのか?警察だって、馬鹿ではない。すぐにバレるのではないか」
「その心配はありません。警察というのはメンツを大事にします。指名手配犯が捕まれば、余程のことがない限り、裁判にかけようとします。私は、罪を大人しく認め刑務所に入る。全てを認めれば、裁判は滞りなく終了します。一度下った判決は覆ることもありません。これで、私は晴れて、この人生から解放される。あなたは、逃亡生活から解放される。お互いに得なことだらけではありませんか」
あまりにも、上手すぎる話だ。わざわざ、汚名を被ってまで逮捕され裁判にかけられようとするなど、正気ではない。それだけ、康作は自分の人生に嫌気がさしているのだろう。
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