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だが、本人が逮捕されることを望んでいるのならば、それに乗っからない手はない。康作の言うように、俺も人生をやり直すことができる。
俺は康作の申し入れを受け入れることにした。
俺と康作の人生は入れ替わった。俺の通報を受け、やってきた警察は拘束された康作を俺だと断定して警察署に連行した。
翌朝の新聞には、俺の名前と一緒に逮捕された康作が写っていた。康作の親戚に親戚や関係者にバレるのではないかと、ビクつくついていたが、
「大丈夫です。康作様は貴方様なのですから、堂々と自身を持ってください」
と、康作の付き人だった男に言われた。
俺は康作という人間がどのような人間なのか知る為、彼のことについて勉強した。康作として生きていく為には、彼にある程度、成りきらなくてはならない。ちょっとしたことで、バレてしまうかもしれないからだ。
幸いなことに俺が康作でないことが知られることはなかった。康作の両親はすでに、他界していたので、気をつかって、両親の話を周りの人はしたがらなかった。
康作の友人もまた、彼と同じ金持ちが多い。金持ちといえば、自慢話ばかりしていると思われているが、それは一般的なイメージでしかなかった。本物の金持ちというのは、余計なことを喋ろうとはしない。挨拶と近況を語り合う程度で終わる。あとは、適当に食事をとり、軽い雑談をするだけでいい。
一年も経つと、俺は康作の仕事のやり口が分かってきた。元々、信頼あった人物らしく、俺が提案した新しい事業にも何の疑問も持たずに賛成してくれた。一般社会では、そうはならない。若輩の提案と上は蹴っていただろう。
しかし、それが良くなかった。俺は康作という人物の立場を最大限に利用して生活を送ってきた。けれど、所詮は他人の人生でしかない。どんなに、康作に近付こうとしても、どこかで歪みが生じてしまう。
顕著に表れたのは、家の資産だ。俺はそつなくこなしてはいるが、どういう訳だが資産は増えない。それどこか、減っていた。俺は経済については疎い方であるが、このまま資産が減っていけば、生活がしていけなくなることは目に見えて分かる。だからといって、すぐにどうにかなる訳でもない。康作として生きていく為には目立つ行動は避けないといけなかった。誰にも金を借りることはできない。
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