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そうして時は過ぎ、高校二年生の冬休みが明けた日のことだ。
教室に、晃生の姿が見えない。翌日も、翌々日も晃生は来なかった。
さすがに心配になって、担任教師に訊ねに行くと、思いもよらない答えが返ってきた。
「佐原はイギリスに留学した」
担任によると、その驚異的な頭脳が認められ、イギリスの超有名大学から招待されての渡英だと言う。
真っ白な頭でふらふらと職員室を飛び出し、校庭へと向かった。いまにも雪が降ってきそうな、灰色の重苦しい空を見上げる。
「……晃生」
本当は、たくさん話したいことがあった。だけども、晃生を拒んだのは、僕自身だ。
この世界で、たったひとりの兄弟なのに。
「晃生」
もう一度、声に出してつぶやいてみる。
晃生の、あの太陽みたいにまぶしい笑顔が、冬の空に次々と浮かんでは消えていった。
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