5/5
188人が本棚に入れています
本棚に追加
/57ページ
 そうして時は過ぎ、高校二年生の冬休みが明けた日のことだ。  教室に、晃生の姿が見えない。翌日も、翌々日も晃生は来なかった。  さすがに心配になって、担任教師に訊ねに行くと、思いもよらない答えが返ってきた。 「佐原はイギリスに留学した」  担任によると、その驚異的な頭脳が認められ、イギリスの超有名大学から招待されての渡英だと言う。  真っ白な頭でふらふらと職員室を飛び出し、校庭へと向かった。いまにも雪が降ってきそうな、灰色の重苦しい空を見上げる。 「……晃生」  本当は、たくさん話したいことがあった。だけども、晃生を拒んだのは、僕自身だ。  この世界で、たったひとりの兄弟なのに。 「晃生」  もう一度、声に出してつぶやいてみる。  晃生の、あの太陽みたいにまぶしい笑顔が、冬の空に次々と浮かんでは消えていった。
/57ページ

最初のコメントを投稿しよう!