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顔を上げ、晃生と向き合う。本当は恥ずかしくてたまらないけれど、僕にはいま、晃生に伝えなければならない言葉があった。
「散々無視して、ごめん。あの頃、僕は晃生がうらやましかった。明るくてみんなの人気者の君に、嫉妬してた。いくら担任に頼まれたからって、あんな風に優しく僕に接してくれたのは、君だけだったのに……」
「それは違う」
僕の言葉を遮るように、晃生が低く言い放った。今度は僕が目を丸くして、晃生を見つめる。
「もしかして、俺が話しかけたのは担任に頼まれたからだって、愁はずっと思ってたのか?」
「……え、」
訳が分からなくてぽかんとしている僕に、晃生は明らかにムッとした表情を浮かべた。どうやら僕は晃生を怒らせてしまったらしい。
「あの、……えっと、」
「ホント、愁って鈍いよな」
「……ごめん」
そうつぶやいた声がみっともなく震える。潤んできた瞳を見られたくなくて、ふたたび俯くと、晃生はそれを阻止するように、ぐいと顎を掴んで顔を持ち上げられた。
晃生の顔が近い。近すぎて、心臓が痛いくらいドキドキと鳴り響く。
「一目惚れだったんだからな」
「……え?」
「だから! 俺はあの時愁に一目惚れしたんだよ」
「……」
晃生の言葉が脳内で空回りしている。ヒトメボレ。ひとめぼれ。……ってそれは、一目惚れ?
「……それって、……ひょっとして、僕にってこと?」
「だから、いまそう言ったろ?」
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