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 理解の悪すぎる僕に呆れたのか、晃生は大きなため息をひとつ零した後、苦笑している。 「初めて会った日の愁は、細くって恥ずかしがり屋で、仕草も態度もめちゃくちゃ可愛くって、絶対に俺が守ってやらなければって思ったんだ。あの頃はまだ、黒縁眼鏡でほとんど顔が隠れてたから良かったけど、ほら、さっきも入り口の男どもにエロい目で見られてたし」 「え、えろ?」  びっくりしすぎて素っ頓狂な声で叫んでしまう。  「これだから無自覚は困る」と言いながら、やれやれといった表情で晃生は僕を見つめた。  僕が他人からそんな目で見られたことなど、未だかつてなかったはずだ。いったい晃生はなにを言っているのか、僕にはやはりまるで理解できなかった。 「ま、そういう天然な所が可愛くて好きなんだけどね」 「……で、でも、それならどうして何も言わずにイギリスに行ってしまったんだよ」  徹底的に無視した相手を責めることなどできる立場ではないとは重々承知の上で、それでも訊かずにはいられなかった。  睨み付けるように見つめ返すと、晃生は目を細めた。口元は微笑んでいるのに、その表情はなぜか淋しげにも見える。 「愁」  優しい声音で名前を呼ばれ、さらに目を細めた晃生の精悍な顔が、ゆっくりと近づいてくる。  晃生のくちびるが僕のくちびるに触れる、そのやわらかな感触に、からだじゅうに甘い痺れが駆け抜けるのを感じていた。
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