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「……」  どのくらいそうされていたのだろうか、一際強く吸われてから、ゆっくりと晃生のくちびるが離れた。至近距離のまま、晃生が僕の顔を覗き込んでいる。  心地良い余韻に浸ったまましばらくうっとりとしていた僕は、事の重大さに気づくと同時に、大きく目を見開いた。  今の、キス! キスした! 晃生が僕にキス!  もうパニックだ。晃生に見つめられているのは分かっていても、目が泳ぎまくって止まらない。手足も無意味にバタバタさせて、とりあえずその場から逃げようとした途端、今度は背中に伸びてきた晃生の両腕に、ぎゅっと抱きしめられた。  バランスを崩した僕は、晃生の胸の中にすっぽりと収ってしまう。 「……晃生、」 「やだ。離さない」  そう言って、ますます腕に力を込められるので、仕方なく僕はそのまま晃生の胸にもたれたまま、荒くなった呼吸を整えた。  晃生の心臓の音が聞こえてくる。その鼓動は思いの外早くて、すました表情だった晃生も、実は僕と同じように緊張していることが伝わってきて、少しずつ僕も落ち着きを取り戻してきた。 「あの時は黙って行ってしまってごめん。……もし今度会える時が来たら、その時はもう二度と愁から離れないって決めてたから」  穏やかな、しかし芯の強い声で、晃生がそう告げる。 「愁が好きだ」 「……」 「もし愁が同じ気持ちでいてくれるなら、……今夜は帰さない」  鋭利なナイフで抉られたように、胸が痛い。  
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