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「どうしてそれを……」 「あ、やっぱり? だって愁と俺、同じ顔してんじゃん。もしかしたらそうなのかなーって思ってさ」  飄々とそう答える晃生を見つめたまま絶句する僕に「なーんてね」といたずらっぽく笑った晃生が、続けた。 「……知ってるよ。愁のことなら何でも知ってる。……たとえば君が極悪テロリスト集団のオーナー、ドクタートヨタだってこととか」 「なっ、なぜそれを!」 「まだ気づかない? 愁は本当に鈍いよなあ」  晃生は苦笑しながら、やれやれ、と外国人みたいに大げさな身振りをした。 「まさか……」 「そう、そのまさかだよ。……俺のコードネームはDB5。国際諜報局のナンバーワンスパイさ」  晃生の言葉に、目の前が真っ白になった。そんな僕をまっすぐに見つめながら、微笑む晃生の腕がゆっくりと伸びてくる。  僕は咄嗟にその腕を振り解いた。 「そうか、……そうだよな。……初めからそれが目的だったんだ」 「……」 「晃生が僕のことを好きだなんて、……ほんの少しでも信じた僕が馬鹿だった」  ふたたび伸びてきた腕を、今度は力を込めてきっぱりと振り落とした。 「目的のためなら実の兄弟でもセックスできるんだ。さすが世界ナンバーワンのスパイだよな」  嘲るようにそう言っている間にも、涙が零れて止まらない。 「晃生の狙いはなに? 僕の命? それなら、いまこの場でひと思いに殺せよ」 「……」 「僕はもう、この世界に未練なんてない。……晃生に殺されるなら、本望だ」  それだけ言って、もう一度しっかりと晃生を見つめた後、そっと瞳を閉じた。 「……俺が愁の立場でも、きっとそんな風に思うだろうな。でも、これだけは信じて欲しい」  長い沈黙の後、晃生が静かな声でそう言った。 「昨日愁に会ってから今まで、俺は愁に、たった一度だって嘘をついていない。そして、これから話すことも、全部本当のことなんだ」  優しく低めの晃生の声が、かすかに震えている。恐る恐る目を開けると、間近に晃生の顔が迫っていた。どこか悲しげな微笑みを浮かべる端整なその顔を見つめていると、突然力まかせに抱きしめられた。 「だから、……お願いだから、最後まで俺の話を聞いて」  裸のままの、晃生の胸に包まれる。その力強く打つ心臓の鼓動を感じながら、僕は力なく晃生に身体を預けた。
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