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   僕は極悪テロリスト集団の次期トップとして、幼い頃から父に厳しく育てられた。  育てられた、とは言っても、世界中を飛び回っていた彼と一緒に過ごしたのは、人生のごくわずかな時間だけだ。たまに顔を合わせれば、出来の悪い息子だと罵られ、一方的に殴られた。ひ弱でやせっぽっちの僕は、極悪組織のトップらしいおそろしく強面かつ屈強な男を殴り返すことなどできるわけがない。ただサンドバッグのようにボコボコにされた後、部屋にこもって何時間も泣き続けた。父としての愛情を感じたことなど、一度としてなかった。  そんな僕に弟がいることを知ったのは、高校一年の冬、父がマカオで暗殺された直後のことだ。  悪事の証拠が残らぬようにと、父は生前、筆跡の残る手紙やノートといった記録物を一切残さなかった。そんな彼が唯一残したメディアである、何十にもかかったディスクのロックを難なく突破した僕は、そこに残された父の、これまた暗号だらけの膨大なデータを読み解き、僕たちの出生の秘密、そしてあの時父が死んだと思っていた弟が実は生きていて、乳児院に保護された後養子となり、なにも知らずに普通の少年としての生活を送っていることを知ったのだった。  彼の名前は佐原晃生(さはらあきお)。  天涯孤独の身になったと思ったら、まさか弟がいたなんて。  僕は胸が熱くなった。そして、それと同時に、僕と同じように孤独な人生を送っているかも知れない彼を、兄として守ってやらなければないという使命感にメラメラと燃え上がった。 「今すぐ僕の部屋へ」  父の右腕として信頼の厚かった次郎を、僕は呼びつける。父が亡きいま、この僕が極悪テロリスト集団のトップなのだ。 「名前は佐原晃生。僕と同い年。この男が通う高校に、明日から僕も行く。すぐに調べて手続きをしてくれ」 「……」  いったい何故に? という視線を向けてくる次郎を睨み付け、僕は「早くしろ」と声を荒らげた。
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