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 晃生は転校生の僕を気遣ってか、休み時間になると決まって声を掛けてくれた。しかしそんな晃生にさえ、僕は緊張してうまく返事ができない。  そうしている間にも、晃生の周囲には常に友人たちが集まって、晃生に話しかけている。特に女子たちは露骨だ。「晃生、こっちに来てよ」と腕を引っ張ったり、邪魔者は消えろとばかりに僕を睨み付けてくる。いたたまれなくなって、逃げるように教室から飛び出し、トイレへと駆け込んだ。  晃生は学校で一番の人気者だった。運動神経抜群。男友達は多いし、女子にはモテモテ。成績は学年ダントツトップなのに、気さくで明るい性格。僕とは正反対の陽キャラだ。  孤児として淋しく生きているなんて思った僕がバカだった。憐れみの目を向けられているのは、僕の方だ。実際僕に話しかけてくるヤツなんて、晃生以外誰ひとりとしていないのだから。  そんな晃生を守りたいなんて、なんという思い上がりだったのだろう。晃生には、僕など最初から必要なかったのだし、僕という存在自体がただのお荷物でしかないのだ。  恥ずかしさと虚しさと、晃生への羨望と嫉妬。そんな感情がごちゃ混ぜになって、いつも胸が苦しかった。次第に僕は、晃生を無視し始めた。話しかけられても一切返事をしない。「一緒に昼飯を食べよう」という誘いを断り、トイレに隠れて弁当を食べた。学校内でも教室でも、常にひとりを貫いた。  そんな僕の頑な態度にまったくめげることなく、晃生は僕にあたたかな声をかけ続けた。本当に、止めて欲しかった。晃生が優しければ優しいほど、ますます自分が惨めになるのだから。
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