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 翌日、僕は同窓会の会場であるイタリアンレストランへと向かった。  受付を済ませ会場に入ろうとすると、近くにいた数名の男たちが訝しそうにこちらを見つめながらヒソヒソと話し込んでいる。きっと誰もが僕を思い出せずに「あいつ、誰?」なんて会話をしているのだろう。  以前の僕ならそんなことにさえいちいち落ち込んでいたが、ドクタートヨタとしてありとあらゆる悪事を働いてきただけのことはあって、それなりに耐性はついたようだ。余裕でスルーして、颯爽と彼らの脇をすり抜けた。  僕の目的はただ一つ、晃生に会うことだけなのだから。    店内に入ると、ひときわ大きな人集りができている、その中心を目指して突き進んだ。  思った通り、そこに晃生がいた。彼は十数人のきらびやかな女たちに囲まれて、爽やかな笑顔を振りまいていた。  ダークグレーの上質なスーツを身に纏ったその姿は、僕の記憶に残っている晃生よりもずっと逞しく、大人の男性の色香を振りまいている。笑ったときの目尻の皺さえセクシーで、あんな笑顔を向けられただけで卒倒してしまいそうだった。  女たちは明らかに色めき立っていて、代わる代わる晃生に声を掛けながら、どうにかして自分に注目して貰おうと死闘を繰り広げている。高校時代の苦々しい記憶が蘇ってきて、視線を逸らしたその時だった。 「愁」  僕に気づいた晃生が手を上げて見つめてくる。女たちに「ちょっとごめん」と言いながら、こちらへと向かって来た。敵意剥き出しの女たちの視線なんてまるで気にしていられないくらい、僕は晃生から目が離せなかった。 「愁、……相変わらず細っこいなあ」  そう言って、伸びてきた手のひらが、僕の髪をくしゃくしゃと撫でたから、僕は一瞬で頬も耳たぶも真っ赤になってしまった。 「腹減ってる? なにか食べ物取ってこようか?」 「……いや、いい」  こんな完熟トマトみたいな顔、恥ずかしくて絶対に見せられない。俯いたままつぶやくと、今度は耳のあたりの空気がざわりと騒いで、僕は身を固くした。 「それじゃ、ここ、抜け出そうか」  耳許で、低く囁かれた声に、全身がぞくりと粟立った。
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