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固まったままの僕の手をぎゅっと握りしめ、晃生は中庭に出ると、軽やかに塀を跳び越えた。僕も晃生の後に続く。
着地した僕の手を掴み、今度は向き合う体勢になった。
「これでやっとふたりきりだ」
晃生の瞳が、まっすぐに僕を射貫く。そのまなざしの力強さに、心臓がキリキリと軋んで痛い。
「愁、ずっと会いたかったよ」
「……どうして?」
僕の問いに、晃生はすこしだけ首を傾げた。
「どうして僕に会いたいなんて思うんだよ。……僕は、君に対してひどいことをしたのに」
「あれは本当につらかった」
ため息交じりでそう返答されて、僕は身体を強張らせた。
そんな僕の様子を見て、ふっと微笑んだ晃生が、ふたたび僕の髪を撫でる。
「俺の方こそ愁に訊ねたいんだ。あの頃、愁は俺をずっと無視してたけど、本当は俺のことを嫌ってなかっただろ? だって、気がつくと愁はいつも俺を見てたから」
「……え?」
と晃生を見つめ返して、その直後に猛烈な羞恥心に襲われた。盗み見してたことがバレてたなんて。今すぐこの場から走り去って、いっそ川に身を投げてしまいたい。
そんな僕の悲愴な心境をよそに、晃生はなおも続けた。
「だから、絶対に俺は嫌われてない。むしろ愁は俺のことが大好き。きっと愁はツンデレに違いないって、そう都合良く思い込むことに決めたんだ。……それって、俺の勘違いじゃないよな?」
ようやく赤みが引いたのに、これ以上ないというくらいに真っ赤になってしまった頬を両手で押さえたまま、僕は力なく項垂れた。それを返事と受け止めたのか、晃生はわざと僕の顔を覗き込んでくる。いやらしいくらいに、にやけた顔。そんな顔すら格好いいのだから、これはもうドキドキが止まらない。
「愁は本当に可愛いなあ」
「ごめん!」
思いの外大きくなった声に、晃生は驚いたように目を丸くした。
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