2.安奈

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2.安奈

ホテルのレストランで夕食を取り、現地時間で20時過ぎるのを待って、莉莉の勤めていた日式KTVの「R」に行こうとホテルからタクシーに乗った。中国では交差点(たとえば「A通りとB通りの交差点」)を言えばだいたい間違い無く目的近くに着くと、以前教えて貰っていたので、拙い中国語(通りの名前を言っただけ)で、そのように伝えた。 見覚えのある景色のところでタクシーを降りると、建物の入り口で「R」の男性従業員が出迎えてくれた。 相変わらず豪華なロビーに入ると、ご指名の()はいますか?と聞かれた。 いないと応えると7~8人はゆったり座れるソファーの置かれた、それでもこの店では一番小さい部屋に通された。 おしぼりで手を拭いていると、女の子が20人程部屋に入ってきて前にズラッと並ぶ。狭い部屋なので入りきれず、何人かは入り口から顔をのぞかせている。 みんな、お揃いのユニフォーム(大抵かなりセクシーな)を着ており、番号の札を付けている。客はその中から好みの女の子を番号で指名する。ここで指名した娘が原則、客が帰るまでず~っと接客してくれる。 この20人に気に入った娘がいなければ、次の20人が入ってくることになる。 「今日は、3回ぐらい並びます」お店のスタッフが言った。60人ぐらいの娘が出勤してるという事だ。 女の子を指名する瞬間は、至福だ。自分がモテているのか、と錯覚してしまう。僕のお金がモテているだけなのだが。 一人ひとり、端から顔とスタイルを見ていく。 女の子は売上げの成績順(=人気がある、と言える)に並ぶのだが、入店して間が無い娘は、しばらくは一巡目に混ぜてもらえる。 僕は、入り口近くにいた、こちらを見ながら、恥ずかしそうに視線をチラチラと外す娘を選んだ。何となく、擦れていない気がした。僕に興味無い娘は初めから並ばないか、僕の方を一切向かないし、ジッと見つめて来る娘はだいたいベテランだ、と僕は思っている。 その娘を残し、みんなが出て行くと、落ち着いた雰囲気になった。彼女は水割りを作りながら、この店に来て3週間だと言った。予想通りだった。 多分、この仕事に就くまで男性のために水割りなど作ったことはないのだろう。ぎこちないし下手だった。もし、何度か指名するのならもう少し色々教え込むのだが、それも邪魔くさいので自分で調整した。
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