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1.上海
軽いショックと共にANAのNH959便は、ほぼ定刻の16:30に上海の浦東空港に着陸した。
1年と8ヶ月ぶりの上海だ。
浦東空港の入国審査は相変わらず混んでいる上に、審査官はいつものごとく無愛想だ。
「Hello」と言っても「ニイハオ」と言っても、ましてや「こんにちは」と言っても、ニコリともせず黙って投げ返すようにパスポートを渡してくる。
パスポートを受け取り、日本とは違って乱雑に回転レーンに積み上げられたスーツケースをピックアップして、出口に向かう。莉莉には、一応、便名をメールしておいたが、返事が無いので多分来てはいないだろう。
2ヶ月ほど前に、莉莉からメールが届いた。
約1年半ぶりのメールだった。
「上島さん、久しぶりに会いたいです。」
突然のメールに驚いたが、僕もとても懐かしくなり「久しぶりだね。元気にしてますか?」と返した。
「まあまあです。たまには、上海に来ませんか?」まあまあ、は彼女の口癖だ。
1年半前までは、仕事で上海によく行っていた。今は、仕事で行くことは無いが、莉莉からのメールで、久しぶりに上海へ行きたくなった。
僕に「会いたい」とメールをしてくると言う事は、今、付き合っている人はいないのだろう。生活費でも困っているのかな、とも思ったが、メールのやり取りにそのような気配は無かった。
彼女は、もし生活費が欲しいならストレートに自分の希望は伝えてくる。
スケジュールを見ると2ヶ月後ならば、少し長めの休み(土日を含め5連休)が取れそうだったので、莉莉に上海へ遊びに行く事と日程を伝えた。
「嬉しいです。待ってます」
それからしばらく、以前、よくメールをしていたときのような、とりとめの無い内容のメールを、交わしていた。
「足りないものは無い?」
「今は、大丈夫です。でも、上海に来たときに買い物付き合ってくださいね」
「うん、いいよ」
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