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『ありがとう、じゃあ、これでやってみるよ。で、どうしよう俺、うすじからこは買ってないや。なにこれ』
『薄力粉やなそれは』
カピパラがやれやれとため息をついているスタンプが出てくる。
『小麦粉には三種類あって、含まれるグルテンの量の違いによって薄力粉、中力粉、強力粉に分けられるの。買ってきた小麦粉に薄力粉って書いてあればおっけ』
手元の小麦粉は製菓用薄力粉と書いてあった。
『薄力粉だった。てかさ、どうせ使うんだったらそのグルテン多めの強力粉の方がいいんじゃね? 俺、初心者だし』
『なんでよ』
『だって、こっちの方が強そうじゃん』
強い方が料理レベルが高くなれる気がする。
『ボクシングじゃねーし!』
カピパラがツッコミを入れてきた。
二月十四日。午前二時。
いつものように学校帰りにザイオンを訪問し、店に顔を出した後、二階の部屋にあがって上城がやってくるのを待っていた。
通学用バッグの横には、紙袋に入れられた手作りガナッシュケーキ。あの後、陽向は大苦戦しながら何とかケーキを焼きあげた。人生初のチョコレートケーキ。それは宇宙から落下してきた隕石みたいな代物だった。
「……」
焼きあがったケーキを見た時はどうしようかと思ったが、包丁で端を切って食べてみれば普通に美味しかった。
「だよな、食べられるもので作ってるんだから」
五センチ角ぐらいに切り分けて、いそいそとひとつずつラッピングして飾りつければ、見栄えもそれなりになる。
「うし」
出来あがったそれを紙袋にいっぱい詰めて、上城がどんな顔をして受け取ってくれるかな、とワクワクしながら翌日家をでた。
学校で、お礼にとひとつ桐島にあげれば、「あ、ちゃんとおいしいよ」と食べて感想をくれる。
「てか、なんでいきなり手作り?」
と、やっぱり理由を問われた。
「今度、きちんと話すよ」
桐島にはまだ、上城と付き合いだしたことを伝えていない。言わなきゃならないかなと思いつつ、どうしても踏ん切りがつかないのだった。
「上城さん?」
「ふえ?」
「上城さんにあげるんでしょ?」
ケーキをもぐもぐ頬張りながら、ケロッとした顔で言われた。
「なんで知ってるの」
こっちは目をむいて見つめ返すしかない。
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