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「あたし、前に、上城さんに告ってフラれたじゃん。その時に理由を聞いたの。そしたら好きな子がいるからって言われたの。その子のこと、大事にしてるから、誰にも言わずに内緒にしてるけどって」
「……」
「でもザイオン行けば、最近はたいてい陽向いるし、横で見てりゃふたりでこっそりラブラブしてるし。あーそういうことかって納得」
「まじっすか」
「だから上城さん、どんな美人が寄ってってもなびかなかったのね。わたしでも無理なわけだわーって納得」
さりげなく自分は美人と認めているところが桐島だが、彼女は確かにきれいだから陽向もうんうんと頷いた。
「……ごめん、黙ってて」
「いいよ、言えないよね、そんな簡単には」
気にしないで、と笑って肩をすくめる。
「それにあたしも最近、アキラさんと付き合いだしたし」
「え、まじ」
「うん。彼すごくいい人。優しいし気配りあるし」
「そうなんだ」
「あたしのことお姫様か女王様かってくらい、大事にしてくれんの」
ふふ、と笑う顔は相変わらずの小悪魔だった。もしかしたら、アキラは将を変えただけで、まだ馬のままなのかもしれない。
「だから気にしないで。お互い幸せになろうね」
そういって、彼女は紙袋に手を突っこみ、もう一個ケーキを奪っていったのだった。
「そろそろ片付けも終わるかな……」
時計を見ながら、陽向は上城が階段をのぼる音が聞こえないかと耳をすませた。
真夜中の部屋にひとりでいるのは、ちょっと落ち着かない。いつも片付けを一緒に手伝いましょうかと言うのだけれど、お前は寝てろ学校あるだろ、と言われてしまう。彼は言い方はぶっきらぼうだけれど、そういう所は優しい。
陽向は手持ち無沙汰に部屋の中を見渡した。上城の部屋はいつも片付いていて、そしておいてあるものが少ない。ただ一箇所、本棚だけを除いて。
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