ゾンビになった彼と不甲斐ない僕

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 僕たちはよく外へ出かけるようになった。  家にいても電気はつかないし、やることもないのだ。暗い家の中で身を寄せ合ってうずくまっているよりも外にいた方がいくらかマシだった。  ゾンビが徘徊する街を、僕たちはくまなく歩き回る。  子供の頃に通っていた保育園やよく遊んだ公園、小学校や通学路を見て歩くのだ。  たまにコンビニに入って買い物をしたりもする。  コンビニに並んでいる弁当やチルド食品はすっかり腐って変色しているし、マガジンラックに並んだ雑誌も更新されないまま放置されていた。  食べられそうなのは、賞味期限が切れていない食べ物くらいだ。  僕の食欲はすっかりどこかへ消えてしまったのに、僕は無意識に食べられそうなものを探していた。 「あ、イチ、おまえの好きなブラックサンダーいっぱいあるぜ。食うか?」  僕はブラックサンダーの小袋を彼の目の前で振る。けれども彼はそれにも興味を示さない。  だめか。  でも、わかる気もする。  僕だって、どんな食べ物を見ても食指が動かないのだ。  封を開けた時の甘ったるいチョコの香りを思い出しても、食べようとは思わない。  そのかわり、あの日の彼を思い出す。
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