ゾンビになった彼と不甲斐ない僕

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 実際の外の様子はまったくわからない。家の周辺は人影もなく静まり返っているし、悲鳴をあげて逃げ惑う声も聞こえない。爆発だって起きていない。ベランダから外を覗くと、時折ボロボロの服装でふらふらと歩いている人がいるだけだ。  ただ、目の前でゾンビになった友達が呻き、ベッドの上で暴れるのを見ていると、自分がゾンビだらけの町中に一人とり残されたのだということを認めないわけにはいかなかった。  日曜の夜に帰ってくるはずだった両親と妹もここへは戻ってこなかったようで、僕一人がこの家の中でゾンビを囲って籠城のようなことをしている。  こんなことなら、無理をしてでも登校し続ければよかった。親や妹と温泉旅行へ行けばよかった。  僕は部屋の隅っこで膝を抱えて座り、手足をばたつかせて僕を狙い続ける彼を恨めしげに睨んだ。  大体、学校へ行く気が起きなくなったのも、目の前にいるこいつのせいなのだ。
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