ゾンビになった彼と不甲斐ない僕

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 誰を好きかなんて考えたことがない。  単に可愛い女の子と付き合えたらだとか、可愛い女の子が告白してくれたらなんていう漠然としたことしか考えていなかったのだ。  けれども、隣に座る彼は甘ったるいチョコレートの香りを漂わせながら、さも当然のようにこういう。 「いるんだろ? 彼女欲しいっていっても誰でもいいわけじゃないだろうしさ」  こんな時、なんて答えればいいのだろうか。  開き直って、「ごめん、可愛い女の子なら誰でもいいわ」なんて言っておくべきなのだろうか。  それとも、無理にでも自分が気にかけていそうな同級生の名でもあげておくべきだろうか。  僕は、自分が「可愛い女の子」というフレーズで思い浮かべる女の子の顔を探した。頭の中で、僕に告白してくれる女の子や隣に並んで歩いてくれる女の子といった色々なシチュエーションを思い浮かべてみる。  しかし、脳内を駆け巡る女の子たちはみんな顔がぼやけてはっきりとわからず、服装も同じ制服を着ているので誰がモデルになっているのかすらわからない。 「好きな女子、いないわ」  僕は正直につぶやく。  からかわれるかと思って少し身構えたが、彼はからかうことなく「うーん」と低いうなり声をあげた。 「それじゃあ、恋人になってほしい子に出会うところからだな」
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