ゾンビになった彼と不甲斐ない僕

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 遠くから小さく聞こえていた飛行音は次第に大きな重低音に変わっていき、戦闘機の影が空の上を横切っていく。  僕にはその飛行機がなんという名前なのかはわからないけれど、戦争ものの映画や自衛隊の映像なんかで見たことがある戦闘用の飛行機だ。  それが爆弾を積んで飛んでいく。  昨日、市内放送がかかった。  この国の人々は、この町を爆弾で破壊してしまうことに決めたらしい。  まだ生き残っている人間がいる可能性を考慮して、急いで逃げるようにと放送していた。  無傷で生身の人間が生き残っていたとして、ゾンビが徘徊しているこの町を脱出することは不可能だろう。  もう二週間くらい待てば、ゾンビも腐りきっていなくなると思う。そうすれば、生き残っている人たちも助かったかもしれない。  けれども、町の外でゾンビの恐怖に怯えている人たちにとっては、そんなことを考える余裕もないのだろう。  僕は、隣でミイラのようにピクリとも動かない彼の手を撫でた。 「できればここで、おまえと一緒に朽ち果ててしまいたかったのだけれど……」  死ぬのは、こわいなと思う。 爆弾が落ちたら僕はどうなるのだろうか。 一瞬で燃えて灰になってしまうのだろうか。  死ぬとどうなるのだろう。  今こうして考えている僕はどこへ行ってしまうのか。
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